ブルックナー交響曲第7番に登場する珍しい楽器
明日、横浜みなとみらいホールにて行われる港北シンフォニーコンサート 第63回定期演奏会では、4本のワーグナーチューバが使われます。
ここではワーグバーチューバについてご紹介します。
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1853年の暮、ワーグナーはラインの黄金の作曲に取り掛かります。その中でヴァルハラのモティフには当初トロンボーンを考えていました。しかし、このモティフには、より相応しい音色を求め新しい楽器を用いることにし、スコアの楽器指示には単に”Tuben”(管楽器) とだけ記します。
トロンボーンより、柔らかいけれど芯のある音ということで、当時すでに存在していた同音域の他の楽器(テノールホルンやバリトン)と異なり、ホルン奏者が吹ける楽器というコンセプトでした。
この年ワーグナーは、パリに旅してアドルフサックスの工房で、サクソルン(現代のコルネットやテナーホルン・アルトホルンなどの金管楽器群)を見て感銘を受けており、新しい音色の為の楽器開発は十分可能だと確信していたようです。
ラインの黄金は、ワーグナーのパトロンであるバイエルン王ルートヴィヒ2世から1869年の8月の王の誕生日に初演を行うよう求められていました。しかし上演準備作業は難航、ワーグナーは切羽詰まった挙句、彼の作品の写譜を行なっていたホルン奏者ハンス・リヒターに、この新しい楽器の調達を依頼します。
ハンス・リヒターに請われて、ベルリンのヨハン・モリッツ(本来のチューバの開発者)の工房で試作が行われた事は記録に残っていますが、件の初演でモリッツ工房作の楽器が使われた形跡はありません。
というのも、この初演、予定されていた指揮者のハンス・フォン・ビューローは、ワーグナーとビューローの妻コジマが同棲を始めた為出演を拒否、本来なら出たがり屋のハンス・リヒターも何故か後釜を拒否、ワーグナーはハンス・リヒターを何とか任命しようと王に働きかけますが、王はフランツ・ヴュルナー(『コールユーブンゲン』の作者)を指名。これをワーグナーは脅して辞任させようとするも、ヴュルナー指揮で初演は強行される、という週刊文春も喜びそうなスキャンダラスな展開の傍で、結局楽器の調達は間に合わず、恐らく軍楽隊が使用していた同じ音域の楽器で代用したのだろう、と言われています。
では本当に実際の楽器が使われたのはいつからか?
実は初演のドタバタの直後から、ワーグナーからリヒターには新楽器に関する手紙がなんども書かれており、遅々としながらも開発(というか調達)の努力は続いていたようです。そして記録に残る限りでは、1875年3月1日ミュンヘンのゲオルグ・オッテンスタイナーの工房から最初の楽器が出荷されます。なおオッテンスタイナーはパリで修行した職人で、ワーグナーチューバを発案する切っ掛けとなったパリのアドルフサックス工房のサクソルンは熟知していました。
これ以降、最初の試作を行ったモリッツの工房でも’horntuba’という名前で1877年に提供を開始。1890年には、かのAlexandarが製造を開始、以降バイロイトではAlexanderの楽器が毎年使われるようになります。
かくも難産だったワーグナーチューバ、スコア上は単に Tenor Tuba, BassTubaとのみ指定されるのが慣習ですが、当然これでは他の類似の楽器と区別が付かないという厄介な問題に加え、記譜法がワーグナーですら途中で変更してしまうという程一定せず、しばしば現場の混乱を招いてきました。
現在では、ブルックナーの採用した記譜法が標準とされておりますが、実はF管の記譜法は不思議な書法(ホルンの記法よりも1オクターブ上)です。一説によれば本来のチューバの楽譜とは一眼見て違うことが分かるよう配慮されたとの事ですが、奏者にとっては迷惑な話です。
さて、ワーグナーチューバの形状は、チューバと同様にベルが上に向いていますが、これは単にチューバに似せたものではありません。
同じ音域の楽器ホルンはベルが後ろを向き、その音は、背後の壁に反射して会場を回り込んで聴衆の耳に届きます。一方トロンボーンはベルが前に向いており、聴衆にまっすぐ届きます。
しかし、ワーグナーチューバは上に向かい天井に反射した音が聴衆に降ってくる。まさしく天空の城ヴァルハラに相応しいものとして発想されたものなのです。
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演奏会場にはチラシを見せるだけで入場できます。
足をお運びいただければ幸甚です。
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